こんにちは、モンジュです!
今回はなぜ日本洋酒酒造組合は新しくジャパニーズウイスキーの定義を定める必要があたのでしょうか?
その理由を近年のジャパニーズウイスキーを取り巻く環境も踏まえながら説明しようと思います!
それではいきましょう!
ジャパニーズウイスキーの新定義
2021年2月12日にジャパニーズウイスキーの新定義が発表されました。
今まで日本のウイスキーに定義が無かったわけではないのですが、どうして今になって新しく定義を変更する必要があったのでしょうか?
その背景には「酒税法」と「ジャパニーズウイスキーの世界的トレンド」が関係してきます。
ウイスキーの定義とは?
そもそもウイスキーの定義とは何のことなのでしょうか?
例えばスコッチウイスキーだとつぎのような項目を満たしておく必要があります。
- スコットランドの蒸留所で糖化・発酵・蒸留を行う
- スコットランド内で3年以上熟成させる
- 熟成には700ℓ以下のオーク樽を用いる
- アルコール度数40度以上でボトルに詰める
などなどです。
これらの項目を満たして初めて、ラベルに「スコッチウイスキー」と表示できるのです。
逆に、これらの条件を一つでも満たしていないウイスキーは決して「スコッチウイスキー」と名乗ってはいけないのです。
つまり、各生産国がそれぞれのウイスキーの定義を決めることで
- 消費者にその品質を保証する
- その生産国のウイスキーブランドをより強固なものとして守る
といった効果をもたらしてくれるのです。
日本のウイスキーの定義は?

この度新しく発表されたウイスキーの定義ですが、既存の定義とはどのようなものであったのでしょうか?
じつは、日本に「ジャパニーズウイスキーの定義」というものは存在していなかったのです。
その代わりに酒税法にあるウイスキーの定義が日本のウイスキーの定義として扱われていました。
次の文章が酒税法に乗っているウイスキーの定義です。
~引用はじめ~
ウイスキー 次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、第9号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。
- イ、発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸
留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度
未満のものに限る。) - ロ、発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を
蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五
度未満のものに限る。) - ハ、イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたも
の(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香
味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)
~引用おわり~
イとロの文章は似ていますが、恐らくモルトウイスキーとグレーンウイスキーの製造方法を想定して書かれているのではと思います。
酒税法の問題点
そして、この酒税法を用いたウイスキーの解釈が問題となっていたのです。
その問題点は次の3つです。
- 蒸留までの工程しか言及されていない
- 「日本国内」という地域指定がない
- 混ぜ物が9割でもウイスキーと名乗れる
1つずつ解説していきます。
蒸留までの工程しか言及されていない
酒税法によるウイスキーの定義だとウイスキー造りの「蒸留」までにしか言及がなく、「熟成」の過程には一切触れられていません。
つまり、熟成していなくても法律上ではウイスキーを名乗ることができました。
「日本国内」という地域指定がない
酒税法には「日本国内」といった地域を指定するワードが存在していません。
つまり、海外からの輸入原酒を日本で売ってもジャパニーズウイスキーとして販売しても特に問題はありませんでした。
混ぜ物が9割でもウイスキーと名乗れる
これは最期のハに記載されている事項です。
ハには「ウイスキーが1割以上使われていたら、それはウイスキーだよ」と書いてあるのです。
正直言って、めちゃくちゃです(笑)
このようにツッコミどころ満載の酒税法によるウイスキーの定義でしたが、新定義発表までに至る経緯にはもう1つの要素が関係してきます。
日本産ウイスキーの人気上昇と闇
日本産ウイスキーの供給不足

近年、世界からの日本産ウイスキーへの注目度が高まってきています。
ウイスキーの5大生産国(スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本)に数えられるほどの日本ですが、国内消費が主でした。
しかしそのおいしさが世界の人に気づかれたために、近年は需要が急拡大してきていました。
それに重ねて、日本でも連続テレビ小説「マッサン」などの影響もあり国内需要も高まっているような状況です。
つまり、需要が供給をはるかに上回っている状況でした。
このような状況でもウイスキーの性質上、生産にはどうしても時間がかかってしまいます。
なので、需要と供給のギャップを埋められずにいました。
粗悪なジャパニーズウイスキーの流通
世界的には出せば売れる状態のジャパニーズウイスキーでしたので、変な商品が出回るようになります。
例えば
- 輸入原酒を日本でブレンドしただけのもの
- ブレンドすらしないで、漢字の書かれたそれっぽいボトルに詰めただけのもの
- 国産ウイスキーを少しだけ混ぜたウイスキーもどき
のようなものです。
しかし、先に紹介した酒税法の定義的には何ら問題は無いのです。
全て「日本のウイスキー」なのです。
やりたい放題だったわけです(笑)
この状況には海外の消費者もどれが本物のジャパニーズウイスキーか混乱していたと思います。
ジャパニーズウイスキーの明確な定義化
新定義発表の目的
このような「なんでもあり状態」の現状を日本洋酒酒造組合は問題視したわけです。
このような経緯のもとで今回の新定義が発表されたのです。
発表された文章の目的にも次のように書かれてあります。independence_06.pdf (yoshu.or.jp)
~引用はじめ~
第 1 条(目的)
このウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準(以下「本基準」という。)は、ウイスキーにおける特定の表示に関する事項を定めることにより、国内外の消費者の適正な商品選択に資することで消費者の利益を保護し、事業者間の公正な競争を確保するとともに品質の向上を図ることを目的とする。
~引用おわり~
つまり、消費者の混乱と適正な販売競争を守るために新定義が発表されたといえます。
新定義の内容
では新定義ではどのように定義づけされたのでしょうか?
以下がその新定義です。
- 原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限ること。 なお、麦芽は必ず使用しなければならない。
- 糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行うこと。 なお、蒸留の際の留出時のアルコール分は 95 度未満とする。
- 内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日 から起算して 3 年以上日本国内において貯蔵すること。
- 日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度 以上であること。
- 色調の微調整のためのカラメルの使用を認める。
過去の酒税法によるものと比べると見違えました。
きちんと熟成過程にも言及されていますし、なにより「日本国内」の文字が目立ちます。
ほかのウイスキーに負けないような、ジャパニーズウイスキーを定義するのにふさわしい文章だと思います。
詳しい新基準については別記事で書いてあるので、良ければ読んでみてください↓
今後、どう影響する?
この新定義によって日本のウイスキー業界はどう変化していくのでしょうか?
自分が考えるのは
より強固なジャパニーズウイスキーブランドの確立
だと思います。
定義がしっかりと作られたことによって、怪しいウイスキーはジャパニーズウイスキーを名乗れなくなります。
そうなると世界に流通するジャパニーズウイスキーは減ってしまうかもしれませんが、品質は保証されます。
なので世界的にジャパニーズウイスキーのブランド力・希少性が増すことで、さらにジャパニーズウイスキーの価値が高まっていくのではないかと感じます。
まとめ
この記事をまとめると
- 新基準の背景にあったのは「酒税法による定義」と「粗悪なジャパニーズウイスキー」の流通
- 新定義によって、さらにジャパニーズウイスキーの価値が高まるのではないだろうか
ということです。
日本洋酒酒造組合から考えると、今回の新基準の施行で現在販売されている商品の中でもジャパニーズウイスキーを名乗れなくなるものもあると思います。
つまり、自らに厳しい基準を設定してまでもジャパニーズウイスキーのブランドを守ろうとしているということなのだと思います。
このように少しずつ日本のウイスキー文化が前に進んでいくことを目の当たりにできて、うれしいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ではまた!
コメント